
ここ数年で、働き方は大きく変わりました。フルリモートで自宅がオフィスになっている方もいれば、週に数日だけ在宅勤務という方もいるでしょう。在宅ワークが一時的なものではなく“当たり前の選択肢”になった今、家づくりでも「どこで、どう働くか」を考えることは欠かせないテーマになっています。ダイニングテーブルでノートパソコンを広げて仕事をしていると、オンライン会議のたびに周りの片づけが必要だったり、家族の生活音が気になったりと、どうしてもストレスが溜まりがちです。せっかく注文住宅を建てるなら、最初から暮らしと仕事の両方を見据えたワークスペースを計画しておきたいものです。この記事では、在宅ワークが当たり前になった時代の「ちょうどいいワークスペースのつくり方」を、いくつかの視点から整理していきます。
完全個室か“半個室”かをまず決める
ワークスペースづくりで最初に考えたいのが、「どのくらいの独立性が必要か」という点です。電話やオンライン会議が多い仕事であれば、生活音や家族の気配が入りにくい個室があると安心です。一方で、そこまで厳密な静けさは必要なく、家事や子育てと両立しながら働きたい場合は、リビングの一角や階段ホールなどに“半個室”のワークスペースを設ける方法もあります。
完全個室は集中しやすい一方で、長時間こもりきりになってしまい、家族とのコミュニケーションが減ることもあります。逆にオープンすぎる場所だと、子どもの宿題スペースと兼用などには向きますが、重要なオンライン会議には不向きかもしれません。
どちらが正解ということではなく、「仕事の内容」「在宅の頻度」「家族構成」「性格」などによってベストな形は変わります。まずは、ご自身の働き方を振り返り、「自分にはどのレベルの“こもり感”が必要なのか」をイメージするところから始めると、間取りの方向性が見えやすくなります。
リビング一角のワークスペースという選択
小さなお子さまがいるご家庭や、在宅ワークと家事を行き来しながら過ごす方には、リビングの一角にワークスペースをつくるプランも人気です。完全な個室まではいかなくても、壁や本棚、ガラスパーテーションなどでゆるやかに区切ることで、視線と音を少しだけコントロールできます。
リビングワークスペースの良さは、家族の気配を感じながら仕事ができることです。子どもが宿題をしている横で親が仕事をする、というように「学ぶ・働く」という行為を自然と共有しやすくなります。また、ちょっとした家事の合間にすぐ席に戻れる距離感も魅力です。
一方で、仕事道具や書類が常にリビングから見えてしまうと、どうしても雑然とした印象になりがちです。カウンターデスクの上にだけ収納をつくるのではなく、プリンターやファイル、資料をしまうための吊り戸棚や可動棚をセットで計画しておくと、生活感を抑えたワークスペースに整えやすくなります。必要なときにだけ扉を開き、仕事が終わったらサッと閉めて「見えなくする」仕組みも、リビング併設型のワークスペースには有効です。

階段ホールや廊下を“ワークコーナー”に変える
敷地条件や延床面積の制約から、専用の部屋をとるのは難しいという場合でも、少し視点を変えることでワークスペースを生み出すことができます。代表的なのは、階段ホールや2階の廊下を少し広めにとり、そこにカウンターデスクを造り付ける方法です。
もともと通路として必要なスペースを活かすため、面積のムダが少ないのがこのプランの大きなメリットです。吹き抜けやリビング階段とつなげれば、上下階のコミュニケーションにも程よく参加しながら、集中できる「見晴らしのいい仕事場」にもなります。
ただし、階段ホールや廊下は動線と重なるため、長時間のオンライン会議には向かないケースもあります。家族が行き来する時間帯と会議の時間帯が重なりやすい場合は、扉付きのニッチスペースにする、可動間仕切りで仕切れるようにしておくなど、少しだけプライバシーを守る工夫も検討したいところです。
寝室・小屋裏に“こもれる書斎”をつくる
オンライン会議や電話が多く、ある程度しっかりとした防音性や集中環境が必要な場合は、寝室の一角や小屋裏空間を活かして“こもれる書斎”を計画する方法があります。寝室の一角にワークスペースをつくる場合は、ベッドスペースと仕事スペースが視覚的に混ざりすぎないよう、腰壁や棚でゆるく区切っておくと、オンオフの切り替えがしやすくなります。
屋根裏の高さを活かした小屋裏書斎も、在宅ワーク時代ならではの人気のプランです。天井の低さをあえて落ち着きにつなげ、隠れ家のような空間に仕上げることで、集中力が高まりやすい環境をつくることができます。ただし、真夏や真冬の暑さ・寒さが厳しくならないよう、断熱・換気・空調の計画はしっかりと行うことが大切です。
いずれの場合も、「寝る」「休む」場所と「働く」場所を同じ空間にまとめることになるため、自分にとって心地よい距離感をどう保つかがポイントになります。仕事が終わったあとにデスクが視界に入るだけで気持ちが落ち着かないという場合は、デスクが見えない方向にベッドを配置したり、ロールスクリーンで視界を切り替えられるようにするのも一つの方法です。
オンライン会議を前提に“背景”と“音”を設計する
在宅ワークの広がりとともに、オンライン会議が日常になりました。ワークスペースを計画するときには、配信スタジオほど大げさでなくても、画面に映る背景と音環境を意識しておくと、仕事のしやすさがぐっと変わります。
背景に生活感の強いものが映り込まないよう、デスクの背面にシンプルな壁面や本棚を配置するだけでも、画面の印象は大きく変わります。オンライン会議で初めて会う相手にとって、自宅の背景はその人の「オフィスの顔」にもなります。白い壁に小さなアートやグリーンを添える、素材感のある棚を設けてさりげなく収納兼背景にするなど、仕事相手から見える景色を意識したレイアウトを考えてみましょう。
音に関しては、窓の位置や道路との距離も影響します。交通量の多い道路側にワークスペースを配置すると、オンライン会議中に外の騒音が気になってしまうかもしれません。可能であれば、比較的静かな側にワークスペースを置いたり、窓の性能やカーテンで音の伝わり方を和らげる工夫を取り入れたいところです。床材や壁材に吸音性のある素材を一部取り入れることで、話し声の反響を抑えることもできます。
コンセント・照明・ネット環境を“仕事仕様”に
ワークスペースは、場所だけ用意すれば良いわけではありません。快適に働くためには、コンセントの位置と数、照明の種類、ネット環境など、見落としがちな設備面も大切なポイントです。
パソコンやスマートフォンの充電に加え、プリンター、モニター、デスクライト、時には加湿器やヒーターなど、意外と多くの電源が必要になります。延長コードで対応できなくはありませんが、コードが床にあふれてしまうと見た目も安全面も気になります。デスクの足元やカウンター上の使いやすい位置に、あらかじめ十分な数のコンセントを計画しておくと、仕事のストレスを減らせます。
照明も、ワークスペースの印象を大きく左右します。部屋全体を明るくする天井照明に加えて、手元をしっかり照らすデスクライトがあると、長時間の作業でも目が疲れにくくなります。オンライン会議の際には、顔に影が出すぎないよう、正面や斜め前から柔らかい光が当たると表情も明るく見えます。窓との位置関係も考えながら、自然光と人工照明のバランスを整えておきたいところです。
そして、いまや不可欠なのがネット環境です。Wi-Fiルーターの置き場所や、必要に応じて有線LANの差し込み口をワークスペース近くに用意しておくことで、接続が不安定になりにくい環境をつくることができます。家族全員がそれぞれのデバイスを使う時間帯と在宅ワークの時間帯が重なる場合は、回線のプランも含めて検討しておくと安心です。
“片づけやすさ”が仕事のしやすさにつながる
在宅ワークのワークスペースは、使う人の性格や仕事の内容によって、散らかりやすさも変わります。書類や参考資料をたくさん扱う仕事の場合、デスクまわりに十分な収納がないと、すぐに山積みになってしまいがちです。逆に、ほとんどが電子データで紙を扱わない仕事であれば、必要以上に収納を増やす必要はありません。
共通して大切なのは、「使ったものを戻しやすい」仕組みを最初から組み込んでおくことです。よく使う書類は手の届く高さのオープン棚に、長期保管の資料は扉付きの収納に、といったように、使う頻度に応じて収納の場所と形を分けておくと、自然と片づけが続きやすくなります。仕事用のカバンやヘッドセットなど、毎日使うものの“定位置”を決めておくことも、散らかりにくさにつながります。
リビング一角のワークスペースの場合は、仕事の時間が終わったあとにどれだけ生活空間としてリセットできるかが、家族の過ごしやすさにも影響します。「ここにしまえば仕事モードは完了」という簡単なルールをつくることで、オンオフの切り替えもしやすくなります。
まとめ:暮らしと仕事、どちらもあきらめないワークスペースを
在宅ワークが当たり前になった今、「家は休む場所」「仕事は会社でするもの」という線引きは、以前ほどはっきりしていません。だからこそ、これからの家づくりでは、暮らしと仕事のバランスを自分たちなりにデザインすることが大切になってきます。完全個室の書斎にするのか、リビングとつながる半個室にするのか。階段ホールや小屋裏を活かしたワークコーナーにするのか。背景や音、照明、ネット環境、収納まで含めて「自分にとって働きやすい形」は人それぞれです。
大事なのは、図面に「書斎 〇帖」と1行書き込むことではなく、そこでどんな時間を過ごしたいかを思い描くこと。集中したい時間、家族と過ごしたい時間、画面越しに仕事相手と向き合う時間。その一つひとつをイメージしながら計画したワークスペースは、きっと在宅ワークのストレスを減らし、家で過ごす時間そのものを豊かにしてくれます。注文住宅なら、間取りの自由度を活かして、暮らしと仕事の両方にフィットする“あなたらしいワークスペース”を一緒に形にしていくことができます。在宅ワークの悩みや理想の働き方があれば、ぜひ家づくりの初期段階から、遠慮なく相談してみてください。